流星ワゴン

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「流星ワゴン」
重松 清 著
講談社文庫  788円

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たまたま弟が、この本を持っていた。
今タイムリーにテレビ放映している、流星ワゴンの原作である。
原作とドラマの違いは、数々あるので、それはまたの機会にして。
純粋に、小説「流星ワゴン」について、感想を述べたい。

まず何より感じるのは、この作者が「チュウさん」という父親像に、
根底に深い愛情を抱いている事である。
欠点だらけで不器用で意地っ張りでガキなチュウさんを、
優しい大人の眼差しで、否定的ではなく肯定的に書いている。
カズの、というより、作者のチュウさんへの愛情を深く感じる小説だった。

そして、誰もが簡単に読めるようなとっつきやすい文章で、
非常に読みやすい小説である。ムダもなく、文章も早いので、
一気に読めてしまうだろう。
誰もがじんと来る場面は多いが、父親を亡くした人、
父親と確執のあった人、父親の存在が希薄だった人などは、
特にツボにハマりやすいように思う。

これはこれなのだが、この小説に、女性はほとんど出て来ない。
3つの父子が交錯するが、カズの母親、一雄の妻、健太の母、など
この父子と関係が深い筈なのに、因果には無関係のような希薄さだ。
それ故、この小説は、とてもすっきりしていて簡潔なのだが
人間関係の厚みや深さやドロついた迫真さは足りない。
唯一、妻の美代子とのセックスシーンだけが、やたらリアルでエロい。
私には、この妻とのシーンは、むしろ不要に感じた。
この小説の中で浮いていたような唐突さで、この部分だけがドロついている。
ここを描くなら、もっと他の女性も描いた方がバランスが取れた気がする。

この小説のテーマは、バックトゥザフィーチャーのように
「人生をやり直す」事ではない。むしろ「人生はやり直せない」事が
テーマだといっていい。
カズがどんなに過去に戻っても、残酷な現実は変わらない。
チュウさんと同じ歳で出会っても、今までの確執やわだかまりが
無くなる訳ではない。
では、何の為に、過去に戻って生き直すのか?
文章の中でも言っているように
「何も知らないまま過ごすのと、知っていて何も出来ないのとでは違う。」のだ。
どうしてこうなってしまったのか。を知り、知る事によって納得して、
現実を受け入れる。覚悟する。受容する。
その、人生の受容こそが、この小説のテーマなのだと思う。
それはとても現実的な解決法で、健太君が言うように、
そうそう「現実は甘くない」のだ。実際は、簡単に人生をやり直す事など出来ない。
だからこそ、この小説はファンタジーな要素がありながらも、
とてもリアルな出来事として、我々の胸に響いて来る。
かといって、絶望感は感じない。ラストは希望的ですらある。
甘くもなく冷たくもなく、ほろ苦い小説である。


そしてとても個人的感想だが、
このチュウさんは、私の亡き父親にとてもよく似ている。
いちいちが、父の言動とダブっては泣けてしまうので、
普通の人の感想とは、少し違うものかもしれない。

ずっと大きく強く逞しいと思っていた父親が、
同じ年になり横に並んでみると、自分より小柄だった驚き。
私もずっとそう思って来た。
18の頃、男もののスーツを着たくて、実家に残された父のスーツを着た事がある。
こんなに小さい?そのスーツは、普通に袖丈やズボンの長さが丁度よくて、驚いた。
あの時の違和感と、このカズの驚きはよく似ている。
大きいと思って来た父親は、大きく見えていただけ、
大きく見せていただけだったのだと、分かってしまった切なさ。
大人になるという事は、誤解していた事もちゃんと理解できるようになる。
けれど知らなくても良い事までも理解してしまう。

自分が思ってたような反応と違う反応を、人からされた時に、
がっかりするのではなく怒り出す、そんな所も、父はチュウさんによく似ていた。
子供の頃、私が欲しがっていたアンデルセンの人魚姫の絵本。
ある日、父は何の前ぶれもなく、人魚姫の本を買って来てくれた。
私が欲しがっていたのは、綺麗な人魚姫が描いてある絵本。
父は読む児童書を買って来た。
私は「こんなんじゃない!これじゃない!」と叫んだ。
父は猛烈に怒り出し「せっかく買って来たのに、なんだ!」と怒鳴られた。
私は大泣きして、後味の悪い事件になった。
今なら、よく分かる。
あれほど欲しがっていた人魚姫の本を、急に買っていったら、
どれほど私が喜ぶだろうと、父は思っていた。忙しかった両親が、
私1人の為に動いてくれる事などほとんどなかった。そのサプライズで、
私を喜ばせるつもりつもりだったのだ。
残念ながら、私は、父に気を遣うような気の利いた子供でもなく、
またそんな年でもなかった。
今なら、その父の気持ちが、痛いほどよく分かる。
自分も親になってみて、子供の喜ぶ顔が見たくて頑張った挙句、
裏切られたそのショックがよく分かる。
あの時、嘘でも喜んであげればよかったと、今なら思う。
けれど、現実もまたやり直す事は出来ない。
そして、もしあの時父が、怒るのではなくがっかりしていたら、
私は学べたかもしれない。とも思う。人が良かれと思ってしてくれた事には、
礼儀を尽くしてお礼を言う。その人はそうしないとがっかりするのだ。
という事を、学べたかもしれない。
人に伝える事。伝わる事。それは、いつの時代も永遠の課題だが、
今の現代の方が、そういう事にひどく敏感だ。
チュウさん世代は、最後の、昭和の不器用なオヤジ世代なのかもしれない。

そんな不器用なチュウさんが、隣で見ていて、肌にヒリヒリと痛い。
今ではこんな場面を見る事も少ないように思えるくらい、
この人は、剥き出しの感情を露にする。
その感情は、普通は人が隠したい感情であったり、カッコ付けたい部分であったり
もっと上手く立ち回れるものであったり。
その様は、無様なものだったりもする。それでも、チュウさんは隠さない。
その真っ直ぐさや愚直さが、眩しくて、見ていて辛い事もある。
それが分かってしまうほど、自分が大人になった事が辛いのかもしれない。
そんな父の強がりが見えてしまったら、とても辛いように。

一雄の「死んじゃってもいいかなあ」という呟きは、とても現代的だ。
「死にたい」という積極的な確固たる意志すらない、ホントはどっちでもいいけど
ここまで辛いなら「死んじゃってもいいかなあ」という消極的な選択。
だから、一雄が「生きていたい」という所まで辿り着くには、多くの時間と
過去へのドライブが必要だった。
実際、行動するまではいかずとも、こんな風に漠然と考えてしまっている人は、
現実世界には多いような気がする。
一雄が前向きに生きる事を考えられるようになったのは、過去へ遡り
現実を受容したのは勿論だが、隣にいる橋本親子の影響も大きいような気がする。

たった8歳で理不尽に未来を断ち切られた少年は、当たり前のように
生きていた現実世界にものすごく執着する。
その率直な子供の行動に、私はハッとさせられる。
漠然と考えている「死ぬ」という事が、当たり前だが、この世界との関わりを
完全に断ち切られる事なのだと、その行動が教えてくれる。
そして、健太君を死なせてしまった橋本さんは、更に、苦い後悔から
未だに立ち直れない。悔やんでも悔やんでもどうにも出来ない悔しさが
様々な言動から滲み出る。
2人の言動は、死んでも、良い事なんかない。そればかりか、悔しい後悔が
残るだけで、ちっとも良くない。
一雄は隣でそれを見ていて、自然に生きる事を選んでいく。
それは、読んでいる我々もそうだ。
生きていた方がいい事を、自然にこの2人が教えてくれるのだ。


押しつけでもなく、説教臭くもなく、ごく自然に背中を押されるように

「生きていた方が、いい。」

その事を、この小説は教えてくれる。

これこそが、この小説の本質なのではないだろうか。
このラストを、ハッピーエンドというかバッドエンドというかは、
意見が別れるかもしれない。
だが、私は、僅かなハッピーエンドであると思う。
一雄がゲームをしながら「ルールなんて自分で変えちゃえばいいんだよ。」
と言う台詞は象徴的だ。
思い込みや慣習や常識やルールや。縛られる現実は山ほどある。
けれど、それを自分で変えてしまえば、何かを自分で変えてしまえば
現実と未来は、変わるかもしれない。
パンドラの匣を開けた最後に『希望』が残ったように
全ての悪い事だらけの最後にも、希望という救いが残る。
一雄が戻った現実も、ほんの少しだけ良い方向に変わっていった。
どこまでいっても、そうそう「現実は甘くない」のだ。
だから、このラストは僅かなハッピーエンドだ。

それでも、生きていた方が、いい。

この「それでも」の部分。
それを、きちんと我々に伝えてくれる小説だった。
押しつけでもなく、説教臭くもなく、ごく自然に背中を押されるように
教えてくれる小説である。
読むと、なんとなく故郷の親を思い出し、なんとなく前向きになれる。
そんなほろ苦い小説だった。
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名刺_convert_20091025165127

良い天気!
このくらい暖かくて
天気が良いと
出かけたくなる。

ここまで長かった。

やっと秋本番な感じ。
でももう11月。



左右バランスの問題で
ちょっとだけ
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