寒天時間

「寒天時間」という、時間がある。

ある時間にぴったりの名前を、友達が思い付いた。
それ以降、私と彼女の間で、寒天時間という通り名で「それ」を呼んでいる。

「寒天時間」の定義は、言葉にすると難しい。
【それぞれが、それぞれの思いの中に深く沈んで、気怠い時間をただまったりと
 一緒に過ごす、夕暮れの黄昏れる時間帯。
 寒天のように半透明なくぐもったとりとめもない時間】
とでも言えばいいだろうか。

夕暮れの黄ばんだ日差しが長く延びて、部屋を照らす。
物静かな音楽が、ただ底を流れている。
静かな沈黙。柔らかく長く延びた時間。
喋るわけでもない、ただ同じ空気の中、一緒にいて時を過ごすだけの。
それぞれが、それぞれのしたい事をしてただ一緒にいる。
暑くもなく寒くもなく、お腹も減らず眠くもない、ただ在る時間。

そんな時間。

例えば「専門学校の寮での、友と過ごす夕暮れ時」
例えば「友達の家で2人、お茶を飲んでいた時」
例えば「実家のこたつで、夕暮れまで読書をしていた時」

そんな時間。

他にも、そんなシチュエーションはこれまで沢山あるのだろうが
あ、これ、寒天時間だ。と思う時間は、そんなにない。

そこに流れる確かな同じ空気。
ブルーのようにはっきりしていない、半透明なメランコリック。
気怠い憂鬱と誰かと一緒に居る心地よさ。

久しぶりに、そんな時間だった。
寒天時間だった。

ダンナと、家に来ていた甥が寝ていて
娘は自分の部屋にこもっている。
夕飯を外食に決めてしまったので、珍しく夕方にする事がなく
暮れてゆく中、1人、アイロンがけをやっていた。


私は、人が寝ている時間に、何かするのが嫌いではない。
最近は自分が眠いので、どちらかというと私が寝ている方だが。
例えば、深夜、ダンナが寝てしまった後に、1人でパソコンに向かったり
例えば、昼下がり、娘が熱を出して寝ている時に、1人居間にいたり
寝ている誰かがいるという安堵感の中、半分1人という自由と静かさ。
そんな中で、1人起きていて、静かに何かしている事がとても気持ちよかったりする。

ソファで寝ている甥の横で、1人黙々とアイロンがけをしていた。
憔悴しきった甥の顔は、ここ数週間でひどく痩せた。
あまりにも色々な事が重なり過ぎた。
その様が気の毒で、そのまま寝かせておいた。
ダンナも、ショックと忙しさと疲れで塞ぎがちである。
眠れる時間があるなら、眠らせてあげたい。少しでも長く。
私は、寝ている人の傍らでの作業が好きだが
普段1人の甥は、誰かが何かしている傍らだからこそ
安心出来て、ゆっくり眠れたのかもしれない。
人は、独りでは生きてはゆけない。
こんな時は、同じ痛みを持つ者同士寄り添い合って語り合い
癒し癒されてゆくしか、方法がない。
後は時間が解決するのをじっと待つだけだ。
どんな傷も、いつかは治り、元通りとまではゆかなくとも
なんとか歩ける所までは戻ってゆくだろう。
それまでには長い長い時間がかかる。

ふとした時に、ずん、と重い現実が身をよぎる。
ふっと暗い思いに捕われて、気が付けば首を垂れて下を向いてしまう。
甥は、気が付けば、深いため息を付いている。
ダンナも、うめき声のようなため息が増えた。

何も考えずに、黙々と作業をする時間はありがたかった。
決まりきった手順で、折り目を揃え、タックを整え
しわしわのシャツが、どんどんがきれいになってゆく。
お茶の所作をやっているような、繰り返しと決まった手順。
心の皺をも伸ばすように、静かに、アイロンでしわを伸ばし続ける。
手を動かす事には、人間の原点の気持ちよさのようなものがある。
料理や皿洗いやアイロンがけや、
何も考えずに黙々と手を動かす事が、今は救いになっているのかもしれない。
義姉も、そうであってくれたらと思わずにおれない。

夕暮れの半分1人の、その時間は、久しぶりに感じた寒天時間だった。

皆の心の皺も、少しでも伸びてまっすぐになってくれるように。
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名刺_convert_20091025165127

すっきり晴れた。
秋晴れだ。

イワシ雲が出てる。
空気の透明感が出て来た。

いよいよ、秋だなあ。



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